純粋な好奇心からか、あるいは会話に困ってか、よくされる質問がある。
「サーファーって冬も泳いでるの?」
7歳でサーフィンを始めてから、耳にタコができるほど聞いてきた言葉。未経験者からサーフィンってそんなふうに見えているのか、と驚くばかりだが、海になじみのない人からすればマリンスポーツなんてそんなものなのだろう。
「ウェットスーツという便利な物があってね……それと我々は泳いでいるわけではなくて……」。あまりにも同じ問いかけがくるものだから、今では量産された就活生のようにワンパターンで返答できるようになった。それも面倒になったら、「サーファーが海に入るのは夏だけだよ。冬に浮いてるのは養殖のワカメ」などと答えようかと思っている。
こうやって何年も波に乗って生きていると、経験上、「好きな言葉」「苦手な言葉」というものが出てくるようになる。個人的な話で恐縮だが、なかでも苦手なのが同じサーファーから言われる「さっきまで良かったのに」という言葉だ。今のところ自分史上、かけられてイヤな言葉ワーストワン。できれば聞きたくない。想像もしたくない。
ちなみに、発言した人に悪気はない。さっきまで本当に波が良かった(と思っている)から話しただけ。楽しかった経験をだれかと共有したくて、ウキウキが心からポロッとこぼれただけだ。楽しい雑談のネタくらいにしか思っていない。しかし聞かされたほうは笑顔で「そうなんだ〜」と返しながら、チクチクと心に傷を負っている。サーファーを殺すのに銃は必要ない。この11文字だけで十分なのだ。マジで。
だからこれを読んだら、今までのサーフィンを思い返してみてほしい。そして思い当たる節があれば自戒してほしい。「波? さっきまで良かったよ。私は10本以上乗れたけど。え、今来たの? 寝坊? うわー残念」。無意識でも、そのような言葉と態度を周りに示してはいなかっただろうか。何だか書いててむかついてきた。
逆にいけすかないサーファーがいて、そいつにイヤミのひとつでも言ってやりたくなったらこの言葉をぶつけてやろう。「さっきまでは良かったんだけどね〜」と。確実にダメージを負わせられるだろう。相手がよっぽど鈍感でなければ。
(あくまで海のなかではピースに。何回もドロップインされたりしてイヤな気持ちになったら用法用量を守ってご使用ください)
と、ここまで寝起きの勢いのままいろいろ書いたが、「コラムにこんなこと書こうかと思ってるんだ。『さっきまで良かったのに』とか海でわざわざ言う必要、ないよね」と母にまくしたてたら「早起きして海行けよ」と冷たく返されたのであった。おっしゃる通りです。
photo by KANATO
追伸
この言葉をテーマに曲を作ってしまった茅ヶ崎の先輩サーファーを最後に紹介する。「610サーフボード」のクラフトマン、610-changこと武藤秀行くんだ。
曲名はズバリ、「さっきまで良かったのに」。レゲエ調のカッティングリフをバックにサーファーの切実な思いを歌い上げた傑作だ。6月10日、茅ヶ崎のハワイアンレストラン「リキ リキ デリ」でライブを予定している。気になる人は足を運んでみてほしい。
湘南茅ヶ崎生まれ、居酒屋育ちの40歳おっさんサーファー
610-changのファーストフルアルバム『人生のline』。全12曲入り。
https://610base.thebase.in/items/3296698
text by Ryoma Sato
佐藤稜馬 プロフィール
1992年生まれ。ライフスタイルスポーツライター。
5年ほど営業マンを経験したあと、持病の“サーフィンしたい熱”を発症し地元湘南に帰る。
以来、雑誌・ウェブで波乗りやアクションスポーツの魅力を伝えている。
夏季は茅ヶ崎の海でサーフスクールを主宰。好きなサーファーはマイケル・フェブラリー。
INSTAGRAM:@jjjryoma