「今日はいい波だったねぇ~!!」・・・・誰でもそんなことが言える毎日を過ごしたいものですよね。みなさんにとっていい波の条件ってなんでしょうか?波のサイズ?天気?それともポイント混雑ってけっこうなストレスなので空いている海?でも、やっぱり重要なのは波のクオリティではないでしょうか。波のクオリティを決定するのはうねり以外に、風、潮汐、流れ(バックウォッシュも含めて)、そして、波の形やブレイクのしかたに大きく影響するのが「地形」です。地形は砂浜の浸食や堆積によって常に変化しますし、沿岸構造物が建設されたために自然の中で繰り返していた浸食・堆積のバランスが崩れることもあります。今回は我々のサーフィンにとても関わりの深い「地形」の話をしたいと思います。
稲村ケ崎公園の高台から江の島側に向かって見下ろした海岸線。
白黒写真は昭和中期、カラー写真は現在の光景。昭和と令和、両者の違いは一目瞭然のはず。
(白黒写真引用:「鎌倉の海を守る会」facebookより http://kamaumipod.blogspot.com)
稲村ケ崎公園の高台から江の島側に向かって見下ろした海岸線。
白黒写真は昭和中期、カラー写真は現在の光景。昭和と令和、両者の違いは一目瞭然のはず。
(白黒写真引用:「鎌倉の海を守る会」facebookより http://kamaumipod.blogspot.com)
古い白黒写真は昭和中期に稲村ケ崎公園から江の島側に向かって見下ろした海岸線です。服装がいかにも昭和っぽい、とても穏やかな休日の光景という感じですね。そして、カラー写真は同じ位置からの眺めを先ほど撮影した令和の光景になります。うねりのサイズと海面のザワザワ感からみて、だいたい同じ潮位になる時間帯で撮影しています。富士山がとてもきれいな冬の澄んだ青空です。毎日見ていても、やっぱり、美しい!!海、山、川、この自然に感謝ですね。
さて、この二枚の写真の時間差はおよそ半世紀ほど。比べてみると、一目瞭然で両者の違いに気付かれることでしょう。そう!大幅に砂浜がなくなってますよね。この時代の子供たちは海辺で野球をやってたと聞きますが(稲村ローカル談)、確かに十分できそうなくらい砂浜が広いです。砂浜がどれくらい無くなったのか、注目してほしいのは134号線の土台となっている構造壁です。古い写真の方が分かりやすいですが、海岸へ降りる丸階段が二か所ありますよね。ちょっと分かりづらい方は写真をズームしてみてください。令和の写真を見てみると、奥側の丸階段には黒い土嚢が山積みになり、脇ではクレーン車が作業を行っています。これは2018年の台風24号で丸階段が半壊し、2019年の台風19号で全壊したとともに、歩道も陥没し、1年半経つ今もなお通行止めとなって終わりの見えない作業を続けています。土嚢の辺りから手前側に海岸線を目で追っていくと砂がまったくなくなり、岩場と壁の下部構造が露呈してるのが分かります。壁際にいる人の大きさを物差しにして見積ると砂の高さが優に大人2人分(4m)くらいは下がっていることがわかります。この大量の砂はいったいどこへ消えたのでしょうか?海岸浸食の専門家と一緒に鎌倉の海岸線を巡検しましたが、明快な答えにはたどり着きませんでした。
砂浜を失った海岸ではブレイクした波のエネルギーを静かに散逸してくれるスロープがないので、そのエネルギーは減衰することなくそのまま構造物に体当たりする。そして、すべてを破壊していく。写真は、2019年、伊豆半島へ上陸後、湘南の上を通過していった台風19号による高波被害@稲村ケ崎。翌朝、この丸階段は全壊したのである。
砂浜を失った海岸ではブレイクした波のエネルギーを静かに散逸してくれるスロープがないので、そのエネルギーは減衰することなくそのまま構造物に体当たりする。そして、すべてを破壊していく。写真は、2019年、伊豆半島へ上陸後、湘南の上を通過していった台風19号による高波被害@稲村ケ崎。翌朝、この丸階段は全壊したのである。
波は穏やかでショアブレイクはせいぜいヒザ丈もないくらいのある日の夕暮れ。このくらいの波でも砂浜がないと最後の一瞬はCTトップランキング級をはるかに超えるスプレーとなる。これが同じ波のシークエンスだと信じられますか?こういう状態になってしまうと浸食作用は格段に加速していく。
波は穏やかでショアブレイクはせいぜいヒザ丈もないくらいのある日の夕暮れ。このくらいの波でも砂浜がないと最後の一瞬はCTトップランキング級をはるかに超えるスプレーとなる。これが同じ波のシークエンスだと信じられますか?こういう状態になってしまうと浸食作用は格段に加速していく。
風が吹き、波がたち、流れがあれば、砂は削られ、運ばれます。これ自体は決して異常現象ではなく、自然の営みです。そして、風・波・流れが常に一方向からしか来ないといった川みたいな海岸なんてありません。ある時期その状態が続いたとしても必ず変わります。浸食されて湾内のどこかに運ばれた砂はまた逆向きの状態になったときに戻ってきます。季節・天気の変化によって浸食と堆積を繰り返して、そこの砂浜は健全な状態を維持しているのです。では、『日本のたくさんの海岸でなぜ砂浜がどんどんなくなっているのでしょうか?』・・・・カリフォルニアの中で今もなお Love & Peace の雰囲気が色濃く残るベンチュラもこの問題を抱えるサーフポイントのひとつです。その原因は上流にダムを建設したためにベンチュラ川から供給される砂が激減したことによるそうですが、影響はそれだけに止まらず、川がよぎる山間の自然環境にも大きな変化をもたらしていたようです。この事実を様々な角度からの調査によって明らかにし、ダム撤去のムーブメントを引き起こしたサーフライダーファウンデーション・ベンチュラ支部のポール・ジェンキンさんが2004年に来日して彼のプロジェクトについて講演した際に先の質問を投げかけたら、こんな風に答えてくれました・・・・なぜ、砂浜がなくなるのか?それは、人間の活動が海岸のもつ境界線を超えて入ってきたからだよ。それぞれの砂浜にはそれぞれの砂浜がもつ条件、例えば、風・波・流れの強さや方向、湾の形、砂の供給量、砂浜の厚さなどといった多様な条件によって必要となる「懐の深さ(海岸の奥行き)」、言い換えると「目に見えない境界線」があるんだ。その境界線さえ保たれていれば、砂浜には十分な再生能力があり、一時的な変化があっても必ず自分で復元できる。でも、境界線を越えて、懐の中にまで人間活動が浸入してしまうとその能力は損なわれ、いずれ砂浜は消えていくんだよ・・・・今、我々の目の前に広がる海岸風景は日本の高度成長期に起きた開発ラッシュの副作用、いや、あの時、すでに仕込まれていた未来予想図なのかもしれません。
砂浜に必要な懐の深さ・・・・白黒写真はまだ134号線のない時代の稲村ケ崎を望む海岸線。もしかしたら、これくらい「懐の深さ」がないといけないのではないだろうか?そうだとすると、ここに134号線(旧県道鎌倉三崎線)が開通したのが1920年だから、すでにその時点で100年後に現在の姿になることは決まっていたのかもしれない。そして、134号線建設後に生まれた我々はそんなことを知らずに砂浜がどんどんと痩せていく姿を見せられているだけなのかもしれない。
(白黒写真提供:KOZO SURFBOARD、http://kozosurfboards.com/)
砂浜に必要な懐の深さ・・・・白黒写真はまだ134号線のない時代の稲村ケ崎を望む海岸線。もしかしたら、これくらい「懐の深さ」がないといけないのではないだろうか?そうだとすると、ここに134号線(旧県道鎌倉三崎線)が開通したのが1920年だから、すでにその時点で100年後に現在の姿になることは決まっていたのかもしれない。そして、134号線建設後に生まれた我々はそんなことを知らずに砂浜がどんどんと痩せていく姿を見せられているだけなのかもしれない。
(白黒写真提供:KOZO SURFBOARD、http://kozosurfboards.com/)
許正憲プロフィール
台湾出身。鎌倉・稲村ケ崎在住。
数千メートルの深海底をフィールドとする海洋研究者。工学博士。
80年代後半より15年間、Surfing World誌、Surf1st誌で自然を話題にコラム執筆。
サーフライダーファウンデーションジャパンの立上げから理事として関わり、その後、副代表として6年間従事。