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コラム

許正憲『第2回 湘南の海がエメラルドグリーンに?』

2021/02/10 tag: 許正憲

昨年の春、湘南の海がエメラルドグリーンになっていることが話題になりましたが、今回はそれについて書きたいと思います。

昨年の5月中旬、ゴールデンウイーク明けくらいからSNSで「湘南の海が沖縄みたい!」という書き込みが美しい海の写真とともにあちらこちらでアップされ、新聞やテレビでもこの話題が報道されるようになりました。昨年のこの時期といえば、4月7日に政府より緊急事態宣言が発出され、外出は控えましょう、という全国ムードに国民もそろそろしびれを切らしてきた頃です。5月14日にはようやく39県で宣言解除されたものの、神奈川県を含む1都3県では緊急事態宣言が継続されており、神奈川県では県知事から「他県からは来ないでください!」、鎌倉市長は防災放送を使って「観光客の方は今すぐに帰ってください!海岸に降りることは禁じています!」という強いメッセージまで発信し、ローカルサーファーも「海へ行くのは自粛しましょう!」とfbなどで呼びかけていたのですが、世の中の動きは止められず、地元民の意に反して134号線は大渋滞となり、江ノ島近辺の海岸は人で溢れていたようです。そういった背景もあり、このエメラルドグリーン化を目撃した人が多かったことがこの話題を広めることに影響したのかもしれません。

Kyo Masanori Photo
こんな看板、初めて見た。緊急事態宣言中@鎌倉。
この看板も目に留まらずに江ノ島近辺はレジャー客で大渋滞だったというから地元民には迷惑千万な話だ。
そして、バックに広がる海は若干エメラルドグリーンの兆しがあるが、本番は翌週から訪れた。

さて、このエメラルドグリーンの原因は円石藻(えんせきそう)という植物プランクトンのブルーミング(大量発生)で白潮と呼ばれる現象なのですが、円石藻は表面が炭酸カルシウムで覆われて葉緑体を持っているため、要はサンゴ礁が広がっているのと同じ状態になっているので、あんな南国の海の色になるわけです。ただし、大きく異なるのはサンゴ礁は海底に生息していますからエメラルドグリーンの要因となるものは海底にあり、その上を覆っている海水はとても透き通っています。一方、円石藻の場合はこの要因が海水中を漂っているので透明度はすごく悪くなります。遠くでみると一見、南国の海みたいな色には見えますが、近くに寄ってみると海自体が抹茶ラテみたいに濁っているのです。

Kyo Masanori Photo
エメラルドグリーンになった湘南の海。原因は円石藻のブルーミング。
そして、ビジター4名。

たまたま職場で、藻類の超有名な女性研究者とすれ違ったので思わず長い立ち話をしてしまい、この話題で盛り上がりました。彼女によると相模湾で円石藻がこんな大規模にブルーミングしたのはおそらく初めてで、その理由は温暖化、昨年の暖冬が原因だと考えているようです。本来、この時期に湘南の海で恒例となっているのは赤潮ですよね。さび色のような水塊が海岸に押し寄せ、臭いし、体に悪いし、これが出るととても海に入る気がしません。でも、夜になると波打ち際のホワイトブレイクで夜光虫がキラキラと光る景色はきれいです。これも不思議ですよね。夜光虫は水の中を漂っているだけでは光らずに、波がブレイクするときに受ける衝撃で光るんですから。暗闇の海岸線、波の周期にあわせてブレイクラインだけが光っては消えていき、これを繰り返す、、、、とてもロマンティックではないですか。これを生物発光といって、具体的にはルシフェリン・ルシフェラーゼ反応といい、、、、おっと!、、、、脱線しかけたので、話を元に戻すと、例年だと赤潮のはずがなぜ今年は白潮になったかということですね。これには彼らの栄養環境が関係しているそうです。本来、冬場に富栄養化した海が、ゴールデンウィークあたりからは水温が上昇し、太陽光も強くなると一挙にプランクトンがブルーミングを開始します。栄養がたっぷりの海では赤潮が優勢となり、劣勢である円石藻には大規模にブルーミングするチャンスがありません。ところが、一昨年の冬場は水温があまり下がらなかったんですね。これつまりどういうことかというと、、、、例年、冬場は海が荒れ、風によって表層から100mくらいまでがかき混ぜられるため、水温が下がるとともに、深層の栄養豊富な海水も混ざるので、海全体が富栄養化となるのです。しかし、その年の冬は例年に比べて穏やかな天気であり(波もなかった)、海は貧栄養な状態になっていたのではないかということだそうです。貧栄養でも生きていける円石藻が赤潮よりも先に優勢となって海を支配したのが今回のエメラルドグリーン化というわけです。


これが湘南エメラルドグリーン化の立役者となった沿岸に生息する円石藻 Gephyrocapsa oceanica
Photo by NEON ja, colored by Richard Bartz - Own work CC BY-SA 2.5Link
(出典:Wikipedia、https://en.wikipedia.org/wiki/Gephyrocapsa_oceanica

それで、、、、ちょっと長くなりましたが、最後にサーファーにとって面白い話をひとつ、、、、一度目の緊急事態宣言の時期、海洋研究の分野も自粛を強いられ、特にダイヤモンドプリンセス号の一件から船舶におけるコロナ感染拡大リスクが強く指摘される中、我々の調査航海はすべて中止となっていました。相模湾で初めて起きている異常現象に直面していても、研究者たちは目の前の海に出かけて海水をサンプリングすることすらできず、指を加えて自宅でテレワーク。しかし、しつこい性格は研究者の取柄、海の色を追跡すれば、円石藻の広がりや時変化をとらえることができ、とても有益な情報となるので、研究者たちは必死に海の映像をネットで探していたらしいです。そんな中で彼らの研究にとても貢献したのが、波情報サービス会社が配信している定点カメラの映像だったそうです。なんか面白い光景じゃないですか?サーフィンとはまったく縁のない研究者が論文書きながらPCモニターで波チェックしてるって、、、、まあ私はいつもやってるのですが、、、、ちゃんと仕事せぇ!、ってヤジが飛んできそうですね(笑)。

第一回のコラムにも書きましたが、「海を観察すること」、これはサーファーにとっても、海洋研究者にとってもとても基本的で大切なことです。そして、ビーチの最前線で常に観察し続けている波情報サービス提供会社のみなさんは、単にサーファーへ情報を提供しているだけでなく、そのレポートには沿岸環境を考える上でとても有益な内容がたくさん含まれていると思います。海岸に潜在するさまざまな環境問題に取り組んでいく上で、今後、キーパーソンになっていくこと間違いないでしょう。

 

許正憲プロフィール
台湾出身。鎌倉・稲村ケ崎在住。
数千メートルの深海底をフィールドとする海洋研究者。工学博士。
80年代後半より15年間、Surfing World誌、Surf1st誌で自然を話題にコラム執筆。
サーフライダーファウンデーションジャパンの立上げから理事として関わり、その後、副代表として6年間従事。

 

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