INTERSTYLE MAGAZINEのサーフコラム、今回で早くも第3回目です。
第1回は「僕にとってのパイプライン、そして水中写真」、第2回は「海に生きる者として」というタイトルで書かせてもらいました。もしまだ読まれていないという方は是非読んでやってください。
そして今回のタイトルは「サーファーと社会性」です。
このタイトルにどんな印象を持たれるでしょうか?堅苦しい?無関係?いやいや、深い関係??
僕自身は現在28歳ですが、お恥ずかしながら今までは政治というものに本当に関心がなく、最近になってようやく興味が出てきたところです。
あるきっかけで「サーファーもこれからは社会性を強くもって行動していかなくてはいけない」との学びを得たのですが、オリンピックに向けて更にサーフィンに注目が集まるなか、自分たちにできることはなんだろう?どう行動していくべきなのだろうか?という疑問があります。
そこで、僕は御宿町出身ですが4年ほど前から一宮町に引っ越してきたので、ハワイ・ノースショアの名高いビッグウェーブスポット ワイメアもハードに攻め込むコアなサーファーでありながら、千葉県一宮町議会議員として地元一宮町のために活動してくださっている鵜沢清永(うざわきよひさ)さんにお時間をいただいてお話を聞かせていただきました。
(鵜澤清永 KIYOHISA UZAWA 1975年生まれ
サーフィン道場であり、2020年オリンピック競技開催地である釣ヶ崎海岸(通称志田下ポイント)の「番長」と呼ばれるヘビーローカルで小学生の頃から志田下でサーフィンに親しんでいる。NGR SURFBOARD、サーフショップ WREATHS SURFの経営者でありながら、地元一宮町の町議会議員の一面も持ち、サーファーの声を行政に届けてくれている。議員といえばお固いイメージがあるが、実際はこのエリアのサーファーの兄貴分的存在である。)
ユウマ)今日はお時間をいただきありがとうございます。
早速ですが一宮町の町議会議員としてのお仕事って、具体的にはどのようなことをされているのでしょうか?
鵜沢さん)一宮町にはこの素晴らしい海という観光資源があるよね。
でも今までの一宮町ももちろん来てくれる人たちに対してウェルカムだったんだけど、特に何か働きかけたり、一宮を知ってもらおうと呼び掛けたりということをしてこなかったんだよね。
多くのサーファーが訪れるようになって、海沿いの県道30号線沿いは自動的に活性化してきたけど、国道128号線沿いは廃れてきてしまっているから、そっちにも人が流れていく仕組みを作るべきだと思ったんだ。
せっかくの観光資源を活かせてないっていうのかな。そういうアイデアが存在しなかったんだ。
そこで自分が35歳のときに町議会議員に立候補して当選し、大きな規模のサーフィンの大会などを誘致しながらやっていくことで経済効果も生まれてきているよ。
ユウマ)なるほど。素晴らしいですね!そういうのって町長さんのお仕事だと思っていました。
では次に、一宮町は釣ヶ崎海岸が2020年東京オリンピックのサーフィン競技開催地に決定しましたが、それによる変化はどんなことがありますか?
鵜沢さん)まずは、海沿いの県道30号線沿いは土地の高騰がいま日本一になってるんだ。
宿泊施設や飲食店もどんどん増えてきているよね。
これらは喜ばしいことなんだけど、オリンピックの後には必ず土地の値段も下がるからオリンピックの後に向けた動きを今からしていく必要がある。
オリンピックが来て、釣が崎海岸の会場にトイレが残るだけじゃ意味がないし、もっと町が持続的に活性化していく仕組みを作ろうとしているんだ。
1200年続いている祭りがある一宮町の文化を知ってもらって、町の中の魅力的な場所やお店を知ってもらうことで一宮町の三角形に結ばれている道路を循環してもらうことが重要だと思う。
そのためには適切なプランと、一宮町の魅力を発信するベースが必要になるんだ。それを考えては実行に移しているんだよ。
オリンピックが一宮町にやってくることでサーファーがたくさん来てハイ終わり、じゃなくて、この機会を活かして来てくれるサーファーはもちろん、地元の農家の方たちや飲食店、商店の人たちもみんなが継続的にハッピーになれるかどうかってところが大切だと思うんだ。
(一宮町の主幹道路三角形)
ユウマ)素晴らしいですね!いま町長さんと話してるのかと思いました。
とてもお忙しそうですよね。
鵜沢さん)すごい忙しいけど、1番楽しくなってきたのは「まちづくり」だね。
一宮町はすごく魅力のある町なのに今まで何で全然アピールしてこなかったのかなって思うけど、自分が町議会議員になって1期目はひたすら勉強して、2期目からは携われることも増えてきたんだけど、いじり甲斐がありすぎてさ。
自分は議員の中でもダントツに若いんだよね。
町長みたいって言ってくれたけど、本当は議員もそれくらい動かないといけないんだよ。
町の声を聞いて、プランを練って、強い実行力をもって行動するんだ。
ユウマ)僕は鵜沢さんはサーファーの声を行政に反映してくれているっていうのは感じていたんですけど、鵜沢さんはサーファーとかそうじゃないとか関係なく、一宮町のみんなが良くなるようにって考えて行動されてるんですね。
鵜沢さん)結局みんなが幸せにならないといけないと思うんだよね。
農家の人もそうだし、個人商店の人や飲食店、宿泊施設、コンビニもそう。
これだけ色々な人がこの一宮町を訪れているんだから、その人たちにもっと一宮町に興味を持ってもらえて、一宮町を回ってもらえたらみんなが良くなれると思うんだ。
こういう風に考える議員は少ないけど、だからこそ自分がやらなきゃって思うよ。
ユウマ)鵜沢さんは根っからの地元民ですし、とても強い地元愛を感じます。
鵜沢さん)自分はここ地元でサーフィンを始めてずっとやってきたけど、いまサーフィンをきっかけに、オリンピックをきっかけに町全体が良くなることを望んでいるよ。
今は賛否両論あるけど、オリンピックが終わった後に「オリンピックが来て本当に良かったね」ってみんなが思ってくれたらいいね。
ユウマ)僕は御宿町で生まれ育って、いまは一宮町に引っ越してきて4年ほど経ったんですけど、ビジターサーファーや週末を一宮の家で過ごすようなスタイルの人たちにできることって何があるでしょうか?
鵜沢さん)そうだね。例えばスーパーで買い物するのもいいんだけど、一宮には農家のおじちゃんおばちゃんが直接販売している直売所もあるから、そういうところで地のモノを買ってもらって、食べて美味しかったらどんどん発信してもらいたいね。
SNSとかでハッシュタグ#を使ってもらってさ、例えば一宮のトマトが美味いと思ったら「一宮のトマト美味い!」とか、一宮の飲食店に入って美味かったら「どこどこのご飯美味かった!」って発信してほしい。
みんながいま一宮に来て「今日志田下が波いいっすよ~」とか「一宮波最高!」って発信しているみたいにさ。
みんなが一宮の宣伝マンになってくれたら嬉しいね。
ユウマ)僕は吉川共久プロが営んでいる、Atlantic Coffee Standによく立ち寄るんですけど、「あそこのご飯屋さん行ったことある?」とか、「一宮のあそこ面白いよ」といった具合に色んな所を紹介してくれるんですよね。
そういった案内板のような役割になってくれる人も増えていくといいですよね。
(Atlantic Coffee Stand)
鵜沢さん)そうだよね。そういうおかげもあって、今では若い子たちが「一宮にご飯食べに行こう」って言ってくれるようになった。昔じゃありえないことだよね。
そういうプラスの連鎖が起きているのがとてもいいなって思うよ。
ユウマ)では、もう少し大きな規模で、日本の未来をどう考えていますか?
鵜沢さん)本当に色々あるけど、この先の政治の未来は分からない。
でも、だからこそ自分はこの一宮町を盛り上げていこうと思ってるんだ。
ユウマ)鵜沢さんのような考えをもった若い議員さんが増えて、どの町や市にも鵜沢さんのような志を持った人が現れて、それぞれが盛り上がっていったら日本はもっと良くなって素晴らしいですよね。
鵜沢さん)でも、なんで若い議員が少ないかって疑問に思わない?
それには町議会議員の報酬が少ないっていう理由があるんだ。市議会議員は30万円台の手取りになるんだけど、町議会議員は10万円台なんだ。
それだと若い世代には報酬が少なすぎて現実問題、町議会議員だけじゃ飯が食えないんだよね。
自分みたいに自営業を営んでいる者は出られるけど、それも軌道に乗っていないとかなり難しい。一人暮らしならなんとかなるかもしれないけどね。
だから、若くて志も行動力もあるいい人材を行政に入れるためには、町議会議員の報酬を上げる必要があると思うんだ。
現状の議員に高齢の人が多いのはその理由が大きいと思う。退職金をもらって、議員の手当てももらってるから生活ができるんだよね。
町議会議員も市議会議員も報酬を同じにして、若い世代の活きのいいパワーを注入するべきだと思うよ。
一宮町は16人議員がいるんだけど、そんなに必要ないと思うから、人員を削減して一人当たりの報酬を上げた方がいいと思うね。
昨今、テレビでも議員報酬削減とか、議員の削減ってやってるけど、あれを町議会議員にあてはめちゃうと町民が自分の首を絞めることになっちゃうと思う。
というのも、若い世代のパワーが欲しいんだけど、さっき言ったように町議会議員の報酬が少ないから若い世代が参入できなくて、それをさらに促進しようっていう動きなわけだからね。
そういうところも深く掘り下げて考える必要があると思うよ。
ユウマ)なるほど。やっぱり何事も表面的な問題だけではなく、掘り下げてみる必要がありますね。
では次は一宮町の自然環境に対する取り組みについて聞かせていただきたと思うんですけど、鵜沢さんは元々海にテトラを入れることに反対運動をするフェーズから町議会議員になっていかれましたよね。
鵜沢さん)いま自分はサーファー代表として県の海岸浸食問題の有識者会議のメンバーの1人になってるんだけど、自分のほかには県の担当者や土木関係、漁業関係、大学教授などがいて総勢20人ほどのメンバーがいるんだ。
その中で会議がある度に発言させてもらってるんだけど、結局海にテトラを入れれば海岸の浸食は止まるって安易に考えてる人が多いんだよね。
そこには例え計算で数字を出しても、海には複雑に相互作用している海流があるし、計算なんて机上の数字でしかないんだよ。
この間の会議でもハッキリ言ったんだけど、この一宮のテトラを入れる護岸工事は失敗だと思う。
この短い間隔で10本もの突堤を入れたことで離岸流が発生してどんどん砂が沖に出て行ってしまう。
彼らの言う成功っていうのは、テトラのまわりについた砂を指して成功って言っているんだよね。
ユウマ)それってごまかしですよね。
鵜沢さん)そうだね。
そもそも九十九里の海岸浸食は、屏風ヶ浦と太東岬の周辺の海に面する崖が崩れないように護岸工事をしたことが最も大きな要因なんだよね。
それから始まった浸食に対して、さらに間違った対策をとってしまった。
だからこそこれからは真理を突き詰めて、よく考えて行動する必要があると思う。
今自分が考えて提案しているのは、太東漁港などの海底に溜まってしまう砂を海水ごとポンプで汲み上げて効果的に排出する「サンドバイパス」を導入することなんだ。
山から砂を持ってくるのも海と山の両方の生態系を壊すことにも繋がってしまうから、海に溜まってる砂を潮流なども考慮して効果的に動かしてあげるのが得策だと思うんだよね。
(オーストラリアのサンドバイパス)
実は静岡県磐田市の福田というところですでにサンドバイパスは行われているんだ。
今年NSAの全日本が行われた場所だよ。
港から砂を汲み上げて砂を出してるだけど、もう少し潮流を考慮したらもっと良くなったようにも思うかな。
一宮の護岸工事は失敗だと認めて、じゃあそこからどうするかを考えなくちゃいけないんだよね。
そのためにサンドバイパスはとても有効な手段だと思う。
それに、吉田さんという海の地形に関してのスペシャリストも身近にいるのも心強いよ。
吉田さんが海にロープや漁網を加工したものを入れてるんだけど、水がきれいな時に上空から見てみたら沖までごくキレイに砂が着いていたんだ。
その砂が志田下に流れてきて、志田下にいい地形があるんだよ。
学者にもできないことをやってのけているから、有識者会議でも今は認められているんだ。
ユウマ)そうなんですね!吉田さん、365日大変な情熱をもって取り組まれていますもんね。
とても心強いアドバイザーもいるし、有識者会議でより良い議論が行われて海岸浸食問題もいい進展があるよう願っています!
僕たちにもできることがあればと思います。
例えばサーフライダーファウンデーションジャパンメンバー登録をしてもらって、みんなの声を集めて行政に届けるということもできるし、みんなが興味関心をもって関わってもらうことが大切ですよね。
最後に、ビーチクリーンについてなんですけど、一宮町はどのような取り組みをされていますか?
例えば駐車場のあるビーチに海からOne Hand Beach Cleanで拾ったゴミを捨てられるゴミ箱などがあったりするといいなと思うのですが。
鵜沢さん)海岸のゴミ箱っていうのは難しいんだよね。
何でかっていうと、夜中とかにそのゴミ箱に家庭ごみを捨てにくる人がいたり、ひどい場合は産業廃棄物を捨てられたり。ビーチをキレイにするためのゴミ箱なのに、逆にビーチを汚す要因になっちゃう場合があるんだ。
だから一宮町ではそれに代わって、サーフショップがそれぞれ月に1回の頻度で行政からゴミ袋や拾ったゴミの収集などのバックアップをもらいながらビーチクリーンをしているよ。
もちろん台風が来たりするとまたゴミが多く漂着したりすることもあるけど、基本的にはみんなの意識が高まってきているのと、ショップ単位のビーチクリーンでキレイなビーチが維持できていると思う。
ユウマ)確かに、基本的にはいつもキレイですよね。
一宮町はサーフィン業組合と行政との疎通が取れていて、行政からビーチクリーンのためのゴミ袋の提供と、収集したごみの回収まで行政が動いてくれているわけですね。
これは他地域のビーチクリーン活動のモデルにもなれますよね。
鵜沢さん)そうだね。それぞれの自治体に環境課なり環境整備課というのがあるはずだから、そこに掛け合って話をすれば絶対協力してくれると思うよ。
その際に「一宮町ではそういうふうに行政が協力してくれてる」って一宮町の名前を出してくれてもいいと思う。そうしたらその町なり市なりが一宮町に問い合わせるだろうから、そこでやり方を伝えることができるからね。
サーファーたちももっと行政を使って、どんどん関わっていくべきだと思うよ。
ユウマ)そうですよね!僕ももっと勉強してどんどん積極的に行政と関わっていきたいと思います!
ありがとうございました!
僕、高貫佑麻は20代前半のころは政治なんて全く興味がなくて、投票にも行ったり行かなかったりでした。
しかし、年を重ねて自然環境のことや未来のことを感じるようになってくると、やはりサーファーも社会性をもって行政や政治に興味を持ち、積極的に関わっていくことが大切だと感じています。これからも1人の日本人として、1人のサーファーとして、そして1人の地球人として社会性を重んじて積極的な行動を取っていきたいと思います。
今年からアンバサダーに就任させていただいたサーフライダーファウンデーションジャパンのおかげでたくさんのことを学べる機会をいただけていることに感謝しています。サーフライダーファウンデーションジャパンは国際環境NGO団体であり、国内においては政府を補完する役割を持ち、環境保護活動に重要な役割を担う組織です。
ぜひホームページをご覧いただき、無料会員登録など、できることから行動を取っていっていただけたらと思います。
http://www.surfrider.jp/
高貫佑麻(タカヌキユウマ)プロフィール
千葉県御宿町出身、一宮町在住。1989年生まれの28歳。
様々なボードや波を乗りこなしてサーフィンの本質に迫る、ナチュラルな魅力を持ったプロサーファー。
毎冬ハワイのノースショアに通い、エピックなパイプラインをメイクするビッグウェーバー。
旅人であり、モノづくりや写真、環境問題などに取り組んでいる。サーフライダーファウンデーションジャパン・アンバサダー。
目指すはWaterMan。現在は自称WaterBaby。
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