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コラム

高尾千香子『第4回 海が与えてくれるもの』

2024/09/04 tag: 高尾千香子

海を通じて一緒に遊ぶことができる

サーフィンの魅力をそう表現した方がいて、今の私にはじわじわと時間をかけて刺さって抜けなくなっている。
海では世代も性別も、国籍や育った環境、仕事や役割など、その人たちを構成する色々な要素は全く関係なく、一緒に波と遊ぶことを楽しむことができる。

中でも私にとっては、自分より若い世代との交流はとても新鮮で、一緒に遊ぶだけでなく沢山のことを教えてもらっている。
近所のキッズとは、同じくらいのスキルレベルで仲良く一緒に端っこの方でピヨピヨ気持ちを分かち合っていた。ちなみに、今はあっという間に差を付けられて、華麗なトップアクションを魅せつけられている。
キッズの成長がとても嬉しいと同時に、私にとって可愛いライバルなのでちょっと悔しい。

波は常に動いているので、『自分が「こう乗りたい」ではなくて波に合わせるんですよ~』と、ド正論を良いタイミングで言ってもらったことで、最近の私は自分勝手だったなと気付せてもらったこともある。
試合に出るようになって、「勝たなければ!期待に応えなければ!」と勝手に苦しくなっている時には『それ以前に、もっと純粋に波に乗ることを楽しんだ方が良いですよ…。』
ストレートな言葉でグサッと刺されたと同時に、結果的にとても救われた。
どちらも10歳も20歳も若い世代から教えてもらい、気付きや救いをもらった。

 

サーフィンを通じて良い経験をしていることで、人生の先輩へのリスペクトは大前提に、年齢や立場を超えて対等にお互いの意見を交わすこと、気付きを与え合うことが会社や社会でも実現できている。

パラサーフィンは、さらに思いもよらない良い経験を与えてくれる。

私にとって忘れられない瞬間がある。

「ビーチでも動ける車椅子があることを知って、貸してくれる人を探している」という話が友人から回ってきた。
私自身は持っていないが、個人所有している友人を繋ぐことができた。
話を聞くと、2年ほど前に倒れてから半身に麻痺が残り、海に行くことも避けていたサーファーだったパパを海に入れたい!というご家族がモビチェアの存在を知って探していたそうだ。

 

そんなご縁から、倒れてから初めて海に入る日に、私も現地でサポートに入らせて頂いた。

ご本人がどんな心境だったかはわからないが、海に入る前はとても不安そうな曇った顔でビーチに居たことをとてもよく覚えている。
ただ、ご家族や仲間の皆さんが底抜けに明るくて、本人の曇った顔をよそに「よし、海に入ろう!」と、モビチェアと一緒に海に入っていった。

波打ち際で、モビチェアに波がかぶって水しぶきが上がった瞬間「わおーー!ほーーー!」と、楽しそうな声が上がり、曇った顔が、パーっと晴れ大きな笑顔に変わった。

その後の展開は早く、海に慣れたら、すぐサーフィンをしよう!ということになって、その日のうちに腹ばいでサーフィンを楽しんだ。
ご本人だけでなく、パートナーの奥さまや、お子さんたちも一緒に海に入り楽しそうな姿が印象的だった。
今思うと非常におこがましいが、モビチェアの使い方など知っているので、何かできることがあれば、と思って参加していた。
しかし当日は、ただただ楽しくて、そしてパッピーで感動的な時間を過ごすことができ、感謝しかなかった。

その頃の私は、一般社団法人 日本アダプティブサーフィン協会(JASA – Japan Adaptive Surfing Association)を立ち上げたばかりで、手続きや運営も試行錯誤で、何のためにこんなに大変な事をやっているんだろうか、意味はあるのか、と弱気になっていた時期でもあった。
この時期にあの笑顔を見られたことで「軌道に乗るまで諦めない!」と心が決まった。
今年に開催している練習会では、笑顔があふれている。

 

 

サーフィンを始めてから、さらにパラサーフィンに出会ってからは、The Search(探求)の連続で、気づきや学びを得て、自分自身の成長の連続でもあったと思う。
人材育成におけるロミンガーの法則(70-20-10)「成長には、70%は経験からの学び、20%が人との関わりからの学び、10%は研修や体系的な学習が効果的である」というもの聞いたことがある方も多いと思うが、70の経験には、直接的な業務や実務また取り組みに関わらない活動的も含まれている。
パラサーフィンに関わることで、私はとても濃い経験をさせてもらっている。

もし興味があれば、全国にいろんな所で、経験できる場があるのでハッピーな場を楽しみに、遊びに来ていただけたら嬉しい。
様々な違いは脇において、海を通じて一緒に遊ぶという原点に帰ることができる場がある。

海で遊ぶこと、何でこんなに楽しいのだろう。
もっと楽しく遊びたいから、もっとサーフィン上手になりたいな、とまた欲が湧いてくる。

 

高尾千香子 | CHIKAKO TAKAO プロフィール
パラ / アダプティブ サーファー(障がい者サーファー)
一般社団法人 日本アダプティブサーフィン協会(JASA)
マルチナショナル企業 人事/HRビジネスパートナー(HRBP)
静岡出身、東京経由、千葉在住
先天性左前腕欠損(つまり生まれつき左手の肘下がありません)
2013年頃サーフィンを始め、冬はお休み夏だけ週末サーファー時代を経て、2022年にパラサーフィンと出会う。
選手として世界選手権などの大会出場と、パラサーフィンを広めるイベントや基盤づくりの2つを軸に活動。
<Instagram>
高尾千香子 @chikakotakao
JASA @jasa_surfing

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