(前回から続く)若年性認知症の元サーファー川名さんファミリーとの出会い以来、川名さんを中心に毎月集まってサーフィンをするようになりました。
最初は、川名さんに再びボードの上に立って波に乗って頂きたい、と周囲のみんなは願い、ボードに3人で乗って前後で支えて乗ったり、あれやこれや試行錯誤で、色んなチャレンジをしました。
しかし川名さんのその時の身体機能からは、ボードに立って波に乗ることは難しくなってきていることを段々と理解するようになりました。
そして、ボードに無理に立ち上がらなくても、腹ばいになって波に乗っても、十分に波を海を感じることはできるし、何よりご本人が笑顔で楽しまれていたので、これも立派なサーフィンではないか、と皆で感じるようになりました。
それ以来、ご本人の身体に合わせて波に乗る、というスタイルになっていきました。
また、常に波があるとは限らず、波の無い日は無理してサーフィンをすることもなく、ビーチで集まってウクレレを弾いたり、バーベキューをしたり、皆で南伊豆の温泉旅館にサーフトリップに出かけたこともありました。
そんな同じ思いを共有する仲間で休日をビーチで楽しく過ごすようになり、口コミで少しづつメンバーも増えてきて、川名さんのチャレンジをきっかけに自分もサーフィンを始めてみたい、と参加される方もおられ、川名さんを中心としたコミュニティが拡がっていきました。
そして2018年頃から、アダプティブサーフィン(障がい者サーフィン)の世界選手権の優勝経験を持つ内田一音さんと鎌倉で出会い、彼女が開催する障がい者のサーフィン体験会のサポートをさせていただく機会をえました。
体験会を通して、車いすユーザーの方や、視覚障がいのある方、知的に障がいをお持ちの方、障がいを持つ以前から元々サーフィンを楽しまれていた方、また初めてサーフィンにチャレンジする方、様々な方が波に乗るサポートをさせていただきました。
義足や、片腕を欠損された方のサーフィン、
身体に麻痺があるため、腹ばいになって波に乗る方、
視覚に障がいがありながらも、波の音を聞き、楽しまれる方、など多様な方と出会うことができました。
ボードの形も様々で、アウトラインや、フィンの位置、厚み、つかむ所、座る所、など。
その方の持つ障がいを波に適合させて(アダプティブ)楽しむ姿は、型にはまらずに自由にボードの種類を変えてサーフィンを楽しむ、オルタナティブサーフィンそのものだと感じました。
立ち上がることも出来ないかもしれない、
自分でテイクオフも出来ないかもしれない、
でも一人一人はしっかり波に乗って、
波は運んでくれる。
波の一部になり、海の一部になれる。
海を何キロも移動してきた波のうねりのエネルギーを
波打ち際で崩れる最後の波のパワーを全身で受け、
一本一本の波を最後まで楽しでいる。
様々な障害を持ちながらも、ご自分の身体の障がいを波に合わせて楽しんでいる姿に、
サポートするボランティアメンバーも、自分たちが大好きなサーフィンで、沢山の人が笑顔になっていくのを一緒に体感しストークしました。
また障がいをお持ちの方と一緒に波に揉まれているうちに、誰がご体験者の方で、誰がボランティアサポーターなのかなどは関係なくなってきて、ただただその場で皆同じ笑顔で1つになって楽しんでいる感覚を覚えました。
そんな光景を感じているときに、サーフィンの父と言われる、デュ―クカハナモクの名言が浮かぶのです。
"The best surfer out there is the one having the most fun."
「最も楽しんでいるサーファーこそが最も優れたサーファーだ」
ボードに立てなくて腹ばいになって波に乗っても、
ボードのサイズや形にとらわれず、波に乗る人もサポートする人も一緒になって笑顔で波をシェアし楽しんでいる仲間たちは、最も優れたサーファーの一員であると言えるのかもしれません。
私たちは、波に乗ることの喜びを共有し、その瞬間を大切にすることで、サーフィンの魅力をより多くの人々に伝え、様々な障がいがっても自分らしく輝ける社会をビーチから拡げていきたいと考えるようになりました。
柴田 康弘プロフィール
一般社団法人サーファーズケアコミュニティNami-nications代表理事
葉山、鎌倉で介護事業を経営。
2015年に、仕事を通して出会った医療介護福祉系サーファーの仲間と、Nami-nicationsを立ち上げ。
現在は様々な障がいをお持ちの方のサーフィンサポートとつながり作りを行っている。
Nami-nications:https://nami-nications.com/
<Instagram>
@nami_nications (Nami-nications)
@yasuhirophillipshibata (柴田康弘)