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開催:2025年2月12日(水) 〜 2月13日(木) 会場:パシフィコ横浜詳細 »
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コラム

伊藤雄和『第4回 オレ達はまだココにいる』

2019/09/18 tag: 伊藤雄和

Ito Hirokazu Photo

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中央公園の直ぐ裏を流れる伊豆は天城山を源流とする一級河川狩野川の土手で年イチで行われるスケートショップ『Trick’s』主催のコンテスト当日、私は緊張と技術の低さで本番前のフリータイム練習に加わる事が出来ずにいた。マコやナオを始め中央公園の皆も何時にも増して真剣な眼差しで本番前の最終調整を行っている。県内各地から集まったスケーターも同様に滑走していた。「伊藤もさセクションに入って慣れておいた方がいいよ、強引に入らないと順番とか回って来ないからね」ピチTのナオが言う。確かに並んだり、順番とかでは無いのだが各々強引に滑走している割りには妙な秩序があり、暗黙のルールがある様でいい塩梅でパーク内は流れの様なモノが出来ていた。そう、だから初心者は入れないのよ。流れ乱すからね。「伊藤!今だ!行ける!」ナオがバンクの上から言う。自分の番の時少し流れを止めてくれて私が入れる様にしてくれたのだ。少し有難迷惑だがこれはもういくしかない。私は緊張のあまりアメリカンプッシュになっている事にも気付かずパーク中央のバンクtoバンクへ進む。大丈夫、中央公園にあるのと一緒だ!俺は出来る!そう言い聞かせバンクの傾斜に入る。がコンテスト用に製られたコレは何時ものより傾斜もキツくデカイ。フラットからスタートしている私ではスピードもつかず上迄行く事が出来なかった。しかし、このワントライによって緊張も解れナオやマコの前後で積極的に滑走する様になった。その甲斐あり、凡てのセクションにも一通り入る事も出来き、何となく本番のイメージも見えて来た。ハウリングを起こしたマイクのノイズと同時にコンテストのMCが聴こえる。「はい!皆さん滑走を辞めてくださ〜い!只今よりBクラスの予選を行います!エントリーしてる人はテント前に集まってくださ〜い」Bクラスは私がエントリーしている小中学生などが出るクラスでマコ達Aクラスの前に行われるらしい。テント前に行くとMCの人が予選の流れなどを説明している。その時私は何か妙な気配を感じテントの奥に目をやるとグリーンに染めたドレッドヘアーをモヒカンにして下唇に球体のピアスをした男が鋭い眼差しでこっちを見ていた。その男が私に近ずいて来てこう言った。「ボビーは変態プッシュなん?」その男は私をボビーと呼んでいる。誰かと間違えているのだろうか?「ボビー?あの、誰かと間違えてませんか?」「え、でもデッキにワンラブって書いてあるやん。ボブ・マーリー好きなんやろ?自分。」マコに貰ったデッキには言われる迄、気にしていなかったが確かに赤、緑、黄色のポスカでそう書いてあった。貰ったデッキだと説明しても顔もそれっぽいとの理由でもうボビー、それからずーっとボビー令和元年今日の今日迄ボビー。「そろそろ予選やろ?頑張ってな!期待してるで!」私の肩をポンと叩きテントの奥に戻って行った。コレがチョッパー君と私の出会いである。
「では!エントリーナンバー1番の◯◯君滑走の準備をして下さい!さっき説明しましたがBクラスは人数が少ないのでいきなり準決勝になります。この中で上位4人が決勝に進みます!それでは、◯◯君のワントライ目スタート!」
こうしてBクラスの準決勝は始まったのであった。

小中学生といってもコンテストに出るだけあって私とは比べ物にならない程に上手い。そんな中、先程のテント前ミーティングの際、チョッパー君と話し込んでいた為、気づかなかったのだが私と同い年程の見慣れない男がBクラスで1人エントリーしている様で名前を呼ばれ滑走し始めた。その男はレッドのモヒカンを逆立て唇を尖らせ闘鶏の様な動きでもって滑っていた。かなり上手い。そしてバンクtoバンクに勢いよく入るとオーリーしたかと思いきや空中でデッキを掴みステージ部分に両脚で着地し掴んだデッキを抱え右手を天にかざし一気にデッキに振り下ろした!ギターだ!エアギターならぬギターエアーだったのだ!会場はかなり盛り上がっている。どうする、次は私の番だ。イメージどうりにやるしかない、私は覚悟を決めた。
MCに名前を呼ばれスタート位置に着く。ワントライ目スタート。私の場合バンクの上からスタートとか出来ないのでバンク横のフラットからのスタート。まずは最初に覚えたトリック、走行中デッキから降りテールを踵で蹴り回転させて走って追いかけ乗るというトリックだ。ぎこちないがなんとか成功。バンクではボーンレス。失敗。カーブはスルーしてバンクtoバンクへステージ迄なんとか登りコップムーブ。成功。大きなRではターン出来ないので手前で降りて向きを変える。もうする事が無いが止まっている訳には行かず中央のバンクtoバンクの方へノープランで向かう、その時ふとさっきの闘鶏野郎のギターエアーを思い出した。そうか!別に既存のトリックにこだわる必要は無いんだ!出来ないしね。セクション手前で私はズボンの上から己の肉棒をフグリごと持ち上げノーズに固定した。立てたデッキに跨がる格好となるとそのままヨチヨチ歩きでバンクを登り股挟みのまま腹這いになり大胆に下迄転がってみた所で持ち時間終了。会場には一瞬の沈黙の後、僅かに歓声が起こった。鳥肌が立つ程に嬉しかった。私はスケートボーダーになったのだ。この後、ツートライ目を終え決勝なのだが、勿論進めず結果は最下位。Aクラスのマコは準決勝で、ナオは決勝で敗退。初めてのコンテストは終わった。この後、MCによる両クラスの結果発表が順繰りに行われた。「Aクラス上位発表前に審査員特別賞の発表があります!それでは特別審査員のチョッパーさんよろしくお願いします!」
「皆さんお疲れ様でした。審査員特別賞はBクラスの伊藤雄和君です!おめでとう!」
予想外の事態が起きた。テント前に景品を受け取りに行く。「ボビーめっちゃよかったで!でも、レギュラースタンスやろ?変態プッシュ直した方がええで。スタンス取る時、普通の人より一工程多なるで。」
この方がやりやすいかもなんて思っていた矢先に的確なアドバイスを受け頷いていると後方から声を掛けられた。
「おめでとう。俺、チャボ。」
さっきの闘鶏野郎だ。これがチャボとの出会いで以後各地のコンテストなどでは必ず会う様になり現在では私の所属バンドの専属のカメラマンとなる。チョッパー君も同様で現在では大阪に行く度にライブに足を運んでくれる。
コンテストも終わりゴミ拾いなどをしてセクションを一旦中央公園へ運ぶと再び皆滑り出す。何時もの中央公園だ。コンテストを経験してもっとスケートボードが好きになった。もっと上手くなりたいと思った。それよりもコイツらといるのが楽しかった。高校卒業迄毎日の様に遊んだ、悪い事も沢山した。その一つ一つが今の私で宝である。
高校卒業と共に私とナオは進学で上京、マコは地元で就職した。東京ではナオと西新宿、大森駅前、大崎、渋谷、原宿と相変わらず毎日の様にスケートしていた。夏季休暇や年末年始に帰省すれば駅までマコが迎えに来る。とりあえず中央公園に行けば誰かいた。そこには変わらない中央公園があった。私達が10代を終え20歳になろうとしていたある夏の夜、何時もの様に帰省した私達を軽のワンボックスカーでマコが駅に来た。窓から手を出してパシっとしてグーにしてチョン。
「おはよう。どうする?飯行く?」
「おはよう。俺達、新幹線で弁当食べて来ちゃったよ」
「そっか〜。あ、そうだ!第2東名の今工事してる所バンクとカーブあって面白いよ!行ってみる?」
「いきなり行くの!着いたばっかだよ。ちょっと落ち着こうよ、ビール買って来るよ」
私はキオスクでビールを3本購めナオとマコに渡しプシュっとして一口飲んだ。
「俺、車なんだけど。」
と次の瞬間マコの目がキリっと見開いた。
「さっき言ったスポットも面白いんだけど、あそこにもいいスポットがあったよ」
視線の先には白い軽自動車。車中には花柄の布切れの様な物を巻いた3人のギャル。
「いいね〜スポットチェックしてみる?」
そう言ってナオは一口ビールを飲む。
「俺はバックサイド側から攻めてみようかな。伊藤は?」とニヤけるマコ。
「じゃあ俺はフロントのディザスターかけよかな」
「かける?」
「かける!」
「じゃあ俺は縦回転で!」とナオが続く。
「ぎゃははは!スイッチで!」畳み掛けるマコ。
「ププッ出来ねーじゃん!」突っ込む私。
3人は白い軽自動車に近づいて行く。私達に気づいたギャルはエンジンをかけ少しバックして高速切り返しで車を出す。
「あーあ行っちゃたよマコの顔怖いんだよ」
「伊藤も怖いよ」
「2人共髭剃れば?」
「ナオもだろ!」
髭面の3人は笑っている。
「どうする?」
「取り敢えず中央公園行く?」
「うん」

 つづく

あれから20年の月日は流れた。上京後、起業して社長になったマコとは昨日も滑ったし、チャボには明日会うし、ナオにはバンドのアートワークの凡てを任している。平成が終わり令和元年。あの頃出会った仲間達も新しい時代の片隅でそれぞれの滑走をしている事だろう。オレ達はまだ路上(ココ)にいる!凡てが始まった路上(ココ)に!

おわり

あとがき
今回大阪ダガーズ、ACTのジュンペイから引き継ぎ書かせてもらいました。コラムじゃなくてすみません。長々とすみません。ジュンペイの手掛けるブランドと僕とナオことナオトラダムスと一緒にやってるブランドtrash breeds trashでコラボしたりしてて、まあスケート繋がりです。ジュンペイごめん文字数の関係で簡単にします。この後の引き継ぎですが都内でパンクショップRISKを営むヒゴ・ヴィシャス先輩にお願いしてます。僕等世代のレジェンドスケーターの1人です。関東圏で僕をボビーと呼ぶ唯一の人です。

令和元年秋

 

伊藤雄和(いとうひろかず)プロフィール
東京を拠点に活動するロックバンドOLEDICKFOGGY(オールディックフォギー)ヴォーカル&マンドリン担当。東京を拠点に小さなライヴハウスから、大規模の野外フェスまで、幅広く全国規模での活動を展開中。ライヴのオファーも非常に多く、年間ライヴ数平均約100本。独特な楽曲と日本語による歌詞の美しさにより、ライヴを目撃した全ての観客を巻き込む今、注目のロックバンド。尚、自身もスケートボード愛好家でありメンバー、スタッフ、知人、友人に多数のスケート関係者を含む。

 

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