interstyle magazine
 COLUMN
surf columnSURF COLUMN 2012/12/5  
小山内 隆(※写真、左から3人目)
東京都生まれ。編集者。サーフィンライフ誌編集長を経てフリーランスへ。
ザ・サーファーズ・ジャーナル日本語版の創刊に携わる。
創刊時より寄稿するブルー(ネコパブリッシング刊)ではJAPANESE SURF SIDE STORYを
オーシャンズ(ライトハウスメディア刊)ではSEAWARD TRIPを連載中。
昨年は東日本大震災復興支援を目的としたチャリティー・オークションのグリコーゲンを
オーガナイズ。他、ブルータス、ポパイ、ターザン、スペクテイター、ヴィヴァ・コン・
アグアなど業界の内外問わず海やサーフ関連の記事を執筆する。海側の価値観を都会へ。
都会的な視点を海側へ。執筆する媒体によって立ち位置のバランスをはかりつつ、
今後は両者がクロスしていくこと展開が面白いのではないかと企み中。
1回目 2012/10/17 『ハミだすことのススメ』
2回目 2012/11/7 『新しい時代のサーフィンについて』
3回目 2012/11/21 『中東サーファーズ』
4回目 2012/12/5 『これからが面白い雑誌の話』

『これからが面白い雑誌の話』

雑誌はつまらないという声を聞いて久しい。でもほんとうだろうか。個人的には、雑誌はますますこれからが面白いと感じでいる。確かに、もう今までの存在の仕方は難しいとは思う。かつてのように稼ぐことも難しい。しかしコミュニケーションツールとしては、編み手の伝えたいことはより明確になり、読み手の顔ももっと明確になる。マスコミではなく、ミニコミ、もしくはマイクロコミ。けれど、それで成立するのなら、その成立規模で良しとするのなら、純度が増すわけだから送り手も受け手も幸福度は増していく。
ベルリンで訪れたDO YOU READ ME?という本屋さんには、世界中からセレクトされたと思われる雑誌が店内を埋めていた。見た事のない雑誌もたくさんある。イギリス、フランス、イタリア、オランダ、ドイツという欧州諸国だけではなく、中東発、もちろん日本発のもあって、並べられた雑誌は多国籍。使われている言語もバラバラ。ただ、その多くに作り手の顔が感じられ、どれもが似ていない。
最近ベルリンで人気なんですよ、とコーディネーターさんに手渡された雑誌はThe Weekenderというタイトルだ。コンセプトはずばり週末のライフスタイルを提案するもので、小旅行的でありD.I.Y的であり、という内容が100ページにおさめられている。写真は美しく、レイアウトもすっきり。ドイツ語は読めないけれど、おそらく愛情たっぷりのテキストばかりなのだろうと感じられる、編み手の思いが詰まった一冊だった。爆発的な部数は望めないのだろうが、こうした世界観を望む読者はきっといる。そうした人たちと、お互いの顔が見えるくらいの密度の濃さ、距離の近さでつながっていく。でも、もともと雑誌というのはそういうものではなかったか、という思いにさえかられた一冊だった。
先日、近所にあるBiotop ADAM ET ROPEへ初めていった。植物と洋服と、そしてカフェが複合したコンセプチュアルな空間は、グリーンでヘルシーでゆったりとしたムードにあふれている。上階のカフェで遅めのランチをオーダーする際には、常連さん(=サーファー)の顔を見たからか「みなさんサーファーさんですか?」という問いをスタッフさんから頂いた。そのスタッフさんはといえばかわいらしい女の子で、サーフィンをとてもやっているとは思えない立ち居振る舞いだった。けれど、都会のど真ん中なのに、こうした場所で働いたことでボタニカルな生活の良さを知り、サーフィンと出会い、サーファーと触れることができている。彼女のひと言からは、凪の湖面に石を投げると広がる波紋のように、お店のある場所は白金なのに、この場所からサーフィンや自然的な事柄がじわじわと広がっているような印象を覚えた。そして同じことは雑誌にも当てはまる。今という時代だって、雑誌を中心に波紋を広げることができる。なぜならば、これだけ情報過多の時代にもかかわらず雑誌を手にする背景には、いくつかの理由があるからだ。
個人的な雑誌を手にする理由は、送り手の顔が見える著名性であることや、写真と文章とレイアウトデザインによって封じ込められた空気感への愛着や、きっと最たるものは習慣だ。800円ほどの雑誌なら、ひとつじっくりと読める特集なりインタビューがあれば、それで充分にペイされたというくらいに思っているし、2日に1回は顔を出す本屋は想定外との出会いの場と捉えてもいる。たとえば、タイトル買いやジャケ買いなどによって、頭のなかに露ほどもなかった世界と出会える確率は勝手気ままに物色できる書店の方が高い。想定外がないと、結果として飽きる。だからアマゾンやSNSだけでは物足りない。属性の似たソースを通して得られる情報からは、完全なる想定外はないためだ。
そんなわけで、僕のなかで雑誌の存在感は少しも薄れていない。サーフィンについては、世界的な大都市の東京でさえ、もう老若男女が知っているのだから、サブカルチャーとかボードカルチャーというフィルターをかけてしまうのではなく、日常の暮らしのなかにある事柄として捉えた雑誌があってもいいと感じている。海と街のあいだ。街と海のあいだ。両者のあいだには暮らしを楽しくする発見がゴロゴロと転がっている。足元を見つめてそうした発見を丁寧に見つけ出し、言葉と写真でつづる。情報ではない、肉体的な経験がともなった言葉と写真は必ず伝わる。そうしたことはベルリンの本屋さんに並ぶ雑誌たちが教えてくれたし、日本にだってリトルマガジンとして成立している雑誌はいくつもある。あとは編み手の思いひとつ。最近は、そう自分に言い聞かせている。

surf column小山内 隆
1回目 2012/10/17 『ハミだすことのススメ』
2回目 2012/11/7 『新しい時代のサーフィンについて』
3回目 2012/11/21 『中東サーファーズ』
4回目 2012/12/5 『これからが面白い雑誌の話』
 
 
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