あの夢から覚めたここは夕焼け小焼の赤とんぼ。
冬の終わりを感じさせる鳥の囀りと陽気な空気が街には流れていた。
ガタンゴトン ガタンゴトンと汽車に揺られている。
サラリーマンの男性は人差し指を使って鼻くそをほじっている。
僕は大きなアクビをしている。
そう言えば10月に1カ月程 別府を訪れていた際にお風呂屋のおばちゃんと適当な世間話をしていた。
何しに来たの?と聞かれたので「友達のお店の壁に絵を描きにきました」と答えると「絵描きは気楽でいいね」と言われたことを思い出した。
絵描きとは世間一般的には気楽なものなのか?と疑問に思ったが気楽な絵描きってのはかっこいい。
絵描きが気楽に思える風呂屋のおばちゃんの世界の中だけでも絵描きは気楽でいたいものだ。
さて今回のメニューは約2週間昨年壁画を描かせて頂いたハンバーガーショップでの絵の展示と絵の制作をし興味を持っていただいた方達とのコミュニケーション。
久しぶりに会える友達との再会にワクワクしていた。
あれこれの手続きを済ませ搭乗の前に買たビールがまだ2本も残っていた。
「弾はまだ残っとるがよう」と言うセリフが何故か頭の中を回り続けている。
グビグビ ウトウト寝たフリをしながら気が付けば新千歳空港へ。
北海道の冷んやりと気持ちいい空気と風で顔を洗い。
あの子と飲みたいサッポロクラシックを飲みながらお迎えの鉄の馬車を待つ。
わざわざ空港まで迎えに来てくれるなんて本当に感謝でしかない。
いつもは沢山の荷物を背中と両手に持って席にも座れずに札幌駅までの移動をしている。
そうこうしていると友達の鉄の馬車も到着しハンバーガーショップへと向かうことに。
早速お店の壁のサイズに合ったキャンバスを購入し制作に取りかかる。
この展示で来月のお給料が決まるなんて不思議な生活。
日頃の行いが良いせいか生活習慣病なのか早寝早起きビール片手に驚きの集中力と閃きの連続で自分でも驚きながらも3日程で順調に絵は完成した。
絵が完成する度にエネルギーが抜けて数日間なにもでき無くなる事があるが3日間だと消費も少なく元気である。
太陽で雪のスパンコールのドレスがキラキラと光っている。
絵も完成し搬入も終わってホッとする暇も無く明日からいよいよ個展の始まりである。
当日は沢山の友達も遊びに来てくれてワイワイガヤガヤ賑やかに幕を開けた。
展示中は普段なかなかコミュニケーションを取らないタイプの人達とも会話をしたり乾杯をしたりと新鮮で何か気づかせてもらえたような気がした。
順調に展示も制作も進んでいるものの両膝と右足首が痛む…しかし時間は止まってくれない。
お店の定休日を利用して画材の買い足しに街へと出かけた。
必要な画材もすぐに買い揃い寒いのでスープ カレーを食べたいと思い知り合いのお店に顔を出すことにした。
お店に着いたものの営業はしていない様子…
出店の為の仕込み真っ最中だからカレーは出せないがビールならなら出せるとの事だった…せっかくなのでビールを頂くことに…
カウンターで作業を眺めながら店主との会話を楽しみ何杯かやっていた。
隣には昨日の夜から飲み歩いていると言う年上の女性が座っていた。
店主に浮気しても良いから付き合ってくれと口説かれている。
その女性が一言「カレー食べたい」と店主に言った。間違いない!諦めていた気持ちに火が灯る。
大量な仕込みも終盤だったらしくカレーをいただける事になった。
このラッキーから…それから…仲の良い新婚夫婦に会って…ワイワイ中華を食べて…それから…確か…うん…いや…友達と会って…びっこを引きながら…それから…ここは札幌…確か…それから…確か…
季節にそむいた冬のツバメよ吹雪に打たれりゃ寒かろうに「ヒュルリーヒュルリーララ」ついておいでと鳴いております。「ヒュルリーヒュルリーララ」忘れてしまえと鳴いております。「ヒュルリーヒュルリーララ」ききわけのない男です。
3月の北海道はまだ寒い…街灯に照らされた雪がチラチラと踊っている。
ここはどこなんだ?薄暗い部屋のソファーで一人凍えている。
両膝に痛みと右足首の痛みが酷くなっている…
先月も肋骨を痛めていて治ったばかりなのに…
こんなはずじゃなかった…
どんなはずだったのかを考えていなかった。
ボヤけた目を擦り辺りをグルッと見渡してみるとどうやらハンバーガーショップへ辿りついていったようだ。
もしもの為に渡されていた鍵のお陰で行き当たりバッチリな1日がこうして始まるのである。
脳みその浮腫んだ朝は水で肝臓と顔を洗って歯を磨く。
シャイでお酒を飲み過ぎてしまう自分を呪う。
朝食はヘパリーゼとキャベジンの錠剤をつまみに速攻元気のゼリーを流し込んで目を覚ます。
こうやってまた新しい一週間は始まりミラーボールの様にキラキラと断片的な記憶と酒が体内と頭をグルグルと回っている。
お客さんからビールをご馳走していただいたのにも関わらず一向に進まないビールほど申し訳ないなと感じることはない。
気持ちに応える為には常にビールを美味しく飲める訓練をしていないといけない…
こうやってなんだかんだ気が付けばクロージングパーティーとなっていた。
振り返るヤバイ記憶の破片が頭の中でミラーボールと一緒に反射して回っていた。
変な人と言われても、お金にならないのにやっているの?と言われても、アル中とからかわれても、出来ることを出来るだけしか出来ない。
なるようにしかなれない。
無いものは無い。
こんな機会を作ってもらって気楽に沢山の笑顔と出会えるなんて絵描きはやっぱり気楽で幸せだ。
しかし本物の気楽な絵描きになる為にもっと気楽の本質を知り気楽になれる様にならなきゃまだまだだなと自分に言い聞かせる。
この旅も後2ヶ月で1年が経とうとしている。
南は九州、北は北海道、地元は兵庫、優しい人達のもとへ津々浦々。
ここまでくると体はともかくエネルギーの限界を感じてる。
もう朝だ愛知県の会場へと心の旅は続く…
友達の鉄の馬車で思い出話をしながらゲラゲラと笑い空港へと向かう。
いつも別れはなんだか寂しい…これでご縁を繋げれたかな。
空の上で1人皆んなから頂いた思い出と笑顔で幸せに包まれる。
このコラムの期限は過ぎている。
約束を守れなかった自分に嫌気がさすも書けないものは書けない。
ここ何年も何一つ消化できずに生きてきた。
心忙しくどうやったら自分自身になれるのかも未だに分からない。
神戸空港に着き電車で乗り換えながら愛知県へと向かう。
移動中に次の展示のためのキャンバスをネットで注文し夜中23時ごろ最寄りの駅に到着する。
夜遅くにも関わらず従兄弟のお兄ちゃんが迎えに来てくれていた。
今回は従兄弟(アーティスト)と一緒に金山にあるコーヒー屋さんでの展示である。
前々回の個展の為に2ヶ月かけて書いた100号の絵を持ってこれなかったので搬入の前に4日ほどかけて100号の絵を完成させなければならない。
一夜明けた朝方に目を覚ましどんな絵を描こうかと考えながら家の周辺を散歩していた。
桜がとても綺麗だ朝の気持ちいい風と川のせせらぎ山のいい香りが一帯を包み込んでいた。
心許せる家族が近くにいてガチャガチャとしていた心がとても落ち着いて行くのを感じた。
頭で色々と考えたとしてもその時々で感情は変化する。
なるようにしかならないので何も考えずいつも通り絵に向き合う事にした。
全身に影響を与える全てを1つの絵にエネルギーを込める。
心はいつだって正直で素直だから無心で制作へと取り掛かる。
そうこうしていると従兄弟の友達のアーティストの親子が春休みで製作所の壁画を描きに来ていた。
僕も前から一方的に知っている素敵なアーティストで会えたことがとても嬉しかった。
壁はとてつもなく巨大だ...友達や子供達と一緒に1週間ほどで描き上げるとの事だった。
その友達と共に一つ屋根の下で同じ釜のご飯を食べてスーパーファミコンやドンジャラを楽しんだ。
初対面にも関わらず皆んな仲良くしていただいて感謝でしかない。
お陰様で僕の絵の制作は驚きの集中力と速さであっという間に終わったので一緒に壁画を手伝わせていただく事になった。
人の絵を手伝ったことが無かったので緊張したが地元の親御さん達とワイワイとてもいい時間が過ごせた。
いい時間と言うのはあっという間で気が付けば搬入の日となっていた。
コーヒー屋さんの閉店後に皆んなでお店に向かい深夜まで一体感のある場所作りをした。
とてもいい空間となりホッとしたのも束の間で一休みしてスノーボードのデザインの仕事のため一度地元に帰ることになる。
2週間でバタバタと仕事を納め従兄弟と壁画を描いていたアーティスト親子のライブを見る為に岸和田へと向かい合流しクロージングパーティーのある愛知県へと戻る事となった。
今回、従兄弟を含め皆んな素晴らしい音楽を奏でるアーティストばかりである。
素敵な音楽を楽しみながらカルダモン焼酎をグビグビと流し込み炭酸の泡のように僕も消えてしまうのかなと思いながら時を過ごした。
新しい出会いばかりで本当に心からありがたいご縁に感謝でしか無いと思えた。
しかし長かった…2年前の5月の壁画から始まり冬から春にかけてスノーボードの撮影に励み去年の5月から展示が始まり日本全国で壁画や絵の展示をさせていただいて5月に帰って来た。
いい事ばかりでは決して無かったけれども幸せだ。
この幸せと思えたご縁を繋いで生きて行けたらいいなと心から思えた。
笑顔と笑顔がいいですね。
幸せ。