COLUMN
SNOW COLUMN 2016/8/3
加藤健次
1980年生まれ、横浜ネイティブ。B型。乙女座。通訳&翻訳家。身長180センチを超えるヒゲでロン毛な様相のため、1キロ先からでも容易に発見できる。未だ職務質問をされた経験ナシ。20代を始めから終わりまでアメリカはワシントン州でディープに過ごし、ノースウェストのつけ汁にドップリと漬かる。そのつけ汁を今度は白馬という日本のノースウェストで逆に絞り出しながらノンビリと暮らしている。
1回目
2016/6/15
『あの人って何者なの?』
2回目
2016/7/6
『アナドレナイアナログ』
3回目
2016/7/20
『Happy New Season』
4回目
2016/8/3
『Snowboard Connection』
『Snowboard Connection』
やっぱり、自分はスノーボードショップと言う空間が大好きなのである。
その味を覚えさせてくれたのが“Snowboard Connection”だった。
2000年の秋にその店と出会い、学生をしながらバイトで始まり、
2010年に日本に帰るまでマネージャーとして働いたこの店。
残念ながら2年前の夏に様々な理由が重なり、その24年の歴史に幕を閉じた。
当時の仲間はそれぞれの道へ進み、
VOLCOMやBURTON, Marvin MFG等のブランドで頑張っているヤツらも居る。
オーナーのジョンは仲間の仕事等を手伝いながら、自分なりの道をゆっくりと歩んでいるようだ。
「冬の事でビクビクしなくていいなんて、24年ぶりだよ。
今シーズンは息子と滑りに行く事が多くなりそうだな」と店のオープン最終日に
かけた国際電話の向こう側、お互い泣きながら電話で話したジョンの言葉を今でも覚えている。
決してメジャーな通りにある訳ではない、ましてや駐車場ですら申し訳ない程度のスペース。
ちょっとでも他人の店の敷地に停めようもんなら、張ってあるステッカーや車の雰囲気で
「またあの店の客か」とクレームまで出る騒ぎ。
歴代の取り扱いブランドのステッカーで固められ、
中を覗く事も出来ない様なガラス張りのドアを恐る恐る開ける。
その高さ3メートルもありそうな重たいドアをゆっくりと。
すると先ず眼に飛び込んできたのは入りの床にに描かれたローカルアーティストのデッカい絵、
右を見るとベースグラインダーで板をチューンしてる黒人のお兄ちゃん、
カウンターの向こうでは昨日の雪が”Nipple Deep”(=チクビの深さ)だったと笑いながら話す
ブロンドのイケメン、店内の曲はDead Kennedy、ワックスの匂い、ちょっと埃っぽい空気。
天井には歴代の名ボード達が所狭しとボルトで打ち付けてある。
入って5秒、すぐに判った。この店とは長い付き合いになりそうだと。
この店で学んだこと、多分多すぎて本でも書けるんじゃないかってたまに思たりする。
売り方のマニュアル本も無い、競争も無い、1人あたりのノルマも無い。
ただ「世界一のスノーボードショップを目指そう」とシンプルなゴールがあるだけ。
何度か全米TOP3の“ベスト・リテーラー”として選ばれた事もあったが、
もっと大切だったのは店に入ってくるお客さん1人1人にとっての
「世界一のスノーボードショップ」になる事だった。
だからオレは、そのお客さん達にとっての「世界一のスノーボード店員」になってやろうと思っていた。
ショップスタッフとしての責任。
スノーボードを売ると言う商売は、その人の人生をガラッと変えてしまう魔力がある。
だからこそ責任がある。
大袈裟に聞こえるかもしれないが、考えてみればスノーボードに出会ってしまったが為に、
人生がトンでもなく楽しくなってしまったヤツらを大勢知ってる。
多分コレを読んでいる人の大半はそう言う人だろう。
業界人、ライダー、インストラクター、メディア、そしてショップオーナーやスタッフ。
スノーボードなんかに出会わなければもっと人生変ってたかもしれない、
でもきっと今よりもつまらない人生だったと思う。
そんなライフスタイルへのドアを開け、引き入れる入り口を整えるのがスノーボードショップの役割だろう。
だからこそショップ店員は責任重大なのだ。
マジメか!?って思われるかもしれないけど、
「この人のスノーボード人生をこの先ずっと見てやろう」という気持ちでオレはショップに立っていた。
自分がおもいっきりハマっちゃったもんだから、あの人にもこの人にもそのヤバさを伝えたいって思ってた。
もちろん責任と言っても、ただ単にそのスポーツに引き入れるだけのことではない。
店頭でそのギアをシッカリと説明して、ユーザーの言葉を理解して、目の前の売上だけに捕われず、
その人が雪山で楽しんでる姿を想像して商品を提供する。
間違ったブーツや板を“取り敢えず”売っているようじゃ、
その人のスノーボーディングとの付き合いは短いだろう。
当然、そうなれば店との付き合いも短くなる。
近年取り扱いを始めたお店も多いバックカントリーギアは特にそうだ。
ビーコン、プローブ、ショベル、スプリットetc…
モノを売って「ハイさようならー」では無責任すぎるんじゃないか?
だからこそ「あ、ビーコン買ったんで今度山連れてって下さいよー」なんて人が増えてしまう。
ビーコンはバックカントリーへの入場チケットでも何でもない。
ショップは使い方はもちろん、それを身に付けて入って行く世界のリスクも伝えるべきであり、
もし近くの山で講習会等を開いているなら紹介してみるのもいいだろう。
これからスノーボーディングの世界へと足を踏み入れる人が居るなら、
そしてその人にずっとこのスポーツを続けてもらいたいならば、責任をもってドアを開けて導いてあげたい。
その初めての一本を手にしたお客さんがもしかしたら将来活躍する選手になるかもしれない。
もしかしたらサラリーマン辞めて山に籠っちゃうかもしれない。
もしかしたら雪山で運命の人にであって人生変っちゃうかもしれない。
そのお客さんがこの先どうなるかなんて誰にも判らないが、
少なくともその人の“スノーボード人生”の1ページに残ることは確かだ。
初めての一本を選んでくれたショップ店員、オレはまだ鮮明に覚えているし、
今でも彼とは展示会等で顔を合わせる。
この人間臭いやり取りがあってこそのスノーボードショップ。
インターネットベースのコラムで書くのもなんとなくヘンだが、
オンラインやSNSでは決して味わえない人間臭さがここにある。
モノを買う、その消費行動以上の“何か”がスノーボードショップには詰まっている。
あの時店で飲んだ酒と冷えたピザの味、日替わりのiPodから流れる音、
夏を感じさせるサーフワックスの匂い、レジ裏のギシギシと鳴る床の感覚、
冬の訪れを伝えてくれるOne Ballのワックスの匂い、
決して座りがいいとは言えないソファで仲間に打ち明けた相談事、
薄暗いストックルーム、どうしても気になってしょうがない天井のクモの巣、
締まりの悪い店のドア、食べ散らかして店を出て行く常連のスケーターのガキ共、
それをしかるボスの罵声、近くのカフェの可愛いバリスタ、毎日通ったタイ料理屋のオカン、
中華料理屋のオカン、通りの向こうでこっそりとジョイントに火をつけるタトゥーゴリゴリのバーテン、
それを羨ましそうにみるホームレス、仕事が終わって見上げる外の壁画、オツカレさん、
仕事仲間と交わすハイファイブ、プッシュでバス停まで行くアイツ、彼女が迎えに来てるアイツ、
ボロボロのワーゲンのエンジンをやっとのことでスタートさせタバコを吹かすアイツ、
ピスト仲間と合流して通りに消えて行くアイツ、そんでもってお約束の店へとビールを求めて歩き出す自分。
どうにもこうにも、何があろうとも、あの時のこの時のその時の記憶だけは頭から抜けない。
まったくスノーボーディングとは関係の無い所での記憶。
だけどもこの記憶があるからこそ今もこうやって仲間とワイワイ楽しんでるのかも知れない。
多分どれかが欠けててもダメだったんだろうな。
スノーボーディングが与えてくれた繋がり。まさにSnowboard Connection。ほー、そう言う事ね、と。
何気ないスノーボードショップが与えてくれたキッカケ。
その瞬間から始まった自分のヒストリー。
まさかこんな所まで来るとは思わなかった。
ワンクリックじゃ始まらないスノーボード人生を、アノ店で始めよう。ショップに行こう。
加藤健次
1回目
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2016/8/3
『Snowboard Connection』
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