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surf columnSURF COLUMN 2016/6/15

 

岡崎友子
パタゴニアサーフィンアンバサダー。
海の前で生まれ育ったが、16歳でウインドサーフィンを始め、大学に入ってからマウイに通い、90年代にはウエイブ年間ワールドランキング2位、その他入賞多数。ウインドサーフィンの他にもスノーボード、カイトサーフィン、サップなども初期の頃から世界の情報を日本に紹介している。
現在もマウイをベースにカイトサーフィンとサップを中心に風と波を追いかけながら旅を続け、インスピレーションをもらった人たちや場所、出来事について記事を投稿したり、ツアーやイベントで自然と向き合える経験をシェアする活動を続けている。
1回目 2016/6/1 『Blowin’ in the wind (風に吹かれながらの旅生活)』
2回目 2016/6/15 『道具を智恵と技術におきかえて』
3回目 2016/7/20 『The Wave I Ride 自分らしい人生の波に乗るために』
4回目 2016/8/3 『Words of wisdom 師から頂いた言葉』

『道具を智恵と技術におきかえて』

たまにこの便利な現代社会は進化であると思われながら、
実は人間そのものの機能を退化させている部分もあるんじゃないかと感じることがあります。
簡単に言えば、道具が発達したことで体や頭を動かさずともいろんなことができる、
そのおかげで体や頭を以前ほど使わなくなる。使わないとその機能は発達せずに衰えていく。
極端な話、しっぽがあった猿が進化し人間として2本の足で歩き
しっぽが必要でなくなるとともにしっぽが退化していきなくなっていったのと同じです。
車社会のおかげで何処へでも行くのは簡単だけど歩くことが減り、足腰は弱くなったはず。
携帯のアドレス登録機能はとっても便利だけど、
以前みたいに友人の電話番号を暗記する能力がいまでもある人はたぶんあまりいないでしょう。
昔の漁師さんやライフガードたちは毎日海に出ることで
そして海の状況を見ることで次の日の天気や海の様子を予想できたけど、
この10年で急激に発達した波情報を頼りにしているサーファーは、
波が来るかもしれない日をネットなしで予想する知識も直感も育たない。
家具だってなんでも簡単に買って手に入れられるし、
壊しても直すより買ったほうが安かったりするから道具を使うことも下手だし、創造性も退化する。
手書きの文章は減り、タイプして変換させるから漢字はどんどん書けなくなる。
そのうち手の込んだ料理も、昔ながらも伝統工芸や建築も
すべて簡単で便利な即席スタイルが生まれて面倒臭いものはなくなってしまい、
できる人すらいなくなってしまうのではないでしょうか?
それではなんとも寂しいし、
時間はかかっても面倒くさくてもそれにじっくり取り組むことが面白かったり、
充足感を与えてくれる時もあるし、自分の体や頭を成長させてくれる。
そして手軽に何かを得るより自分の頭と体を使って時間をかけて手に入れたものは大事にする。
スーパーの安売りで買った野菜より、
自分で大事に育てた野菜のほうがありがたみがあるのと同じだと思います。
とは言え、この忙しい社会で何でもかんでも時間をかけて
一つ一つの行為に意味合いを持たせ充足感なんて感じてられないよ、とは私も思う。
人一倍どんくさくて要領の悪い私は便利な道具にどれだけ助けられていることか。
でもたまに道具に頼らない、あるいは時間をかけてコツコツ何かをやることで、
心と体の持つ能力を退化させないことを意識してみるのは大切かなと思います。
キャンプや何もないところを旅すると、
何もない中で何をどう工夫してやりたいことをやるか、
食べたいものを食べるか、自分の能力や創造性が試されます。
でも何にもないところで食べられるものを見つけてきてそれを調理して食べる、
座るところもないところに、岩や流木をうまく使って憩いのスペースを作る。
電子レンジであっためることができない残り物をいかに次の日も美味しく食べるか、
天気図だけを頼りに、あるいは天気図すら見ずにどれだけ翌朝の波のコンディションを予想できるか。
スーパーがない分は山や海で食べられるものを知っているという知識で補い、
家具や、クーラーがないことは大工技術や想像力を駆使し、
電子レンジや冷蔵庫がないことは保存やいろんな調理法を知ることでカバーできる。
波情報サイトの代わりに毎日真剣に海、風、雲の様子を観察し分析する。
大変だけどその分うまくできた時はすごく嬉しい、それがキャンプの楽しさだと思うのです。
毎日がキャンプだったらしんどいけど
たまにこういう経験をすることで便利さに甘やかされ、衰えかけている直感や本能、
そして体の能力をリフレッシュ、刺激することができるのではないかしら?
優れたサーファーがやってくる波を予想できたり、
クライマーがなんとなく嫌な予感がして避けたところで雪崩が起きた、とかそんな話はよく聞きます。
魔法のように思えるけど
実はもともと人間は危険を回避する本能的感覚を持っていたのに、
安全で便利な社会にいることからだんだんその能力が衰えてきただけなのではないかと思うのです。
そういった素晴らしい能力を取り戻すためにも
私はいつも海や山で自然が教えてくれようとする知識を見逃さずにいたい。
そして彼らの言ってることを聞き、理解できる能力を取り戻したい。
そのためにはあまり道具や便利さに頼らないことも必要だと、常に言い聞かせてはいます。
全ての道具を知識や経験に置き換えることで
自分の体と精神力を発達させ本来持っていた能力を取り戻すことができる。
そう思えれば便利さに頼りすぎないことも楽しい挑戦になってくるような気がしませんか?
そんなことを書きながら、未だに欠落したスキルをカバーするために、
最高級のボードや道具、いただける助けは全てつかってでもいい波に乗ろうと
やっきになってる自分に、苦笑いしてしまいます。
結局本当に上手なサーファーは何に乗ってスタイリッシュ。
道具にたよらず自分の知識と技術でカバーできるのですよね。
波乗りは人生の縮図。
どんな波でも道具でも楽しめる上手なサーファーは
きっとどんな状況でどんな環境に置かれても人生を楽しめる人でもあるんじゃないかな。

メキシコ、バハでのドーンパトロール(夜明けセッション)朝日を浴びながらの海の時間はどこにいても素晴らしい。
photo Clark Merrit


これだけネットや情報が氾濫しているにもかかわらずまだサーフィンにおいてはあまり開拓されていないマーシャル諸島。
波もクオリティーも素晴らしいけれど、何もない中での生活や全く人がいない大海原を旅することで
いろんなことを考えさせられる。
photo Pedro Gomez


自分で必要なだけ畑から採って買うシステムのオーガニックファーム、
ここの野菜は信じられないほど長い間新鮮で勢いがある。
今は自分であまりやっていないけれど、畑仕事は海のセッションを終えた後の最高のクールダウン、癒しの時間にもなる。


マウイで自生するコーヒーを積んで自分でプロセスして、焙煎するのも楽しみの一つ。


マーシャル諸島、無人島にいた豚、ココナッツを割ってあげるとあまりに空腹なのか、近寄って私の手から食べていた。


メキシコ、バハ。1ヶ月半車でのキャンプ生活だったけれど
途中長期キャンプしていた人が地道にビーチの石を積み重ねて作った部屋のような石壁を発見。
石窯まであり、通路も石が敷き詰められていた。ありがたく拝借、居心地のいいキャンプサイトだった。


surf column岡崎友子
1回目 2016/6/1 『Blowin’ in the wind (風に吹かれながらの旅生活)』
2回目 2016/6/15 『道具を智恵と技術におきかえて』
3回目 2016/7/20 『The Wave I Ride 自分らしい人生の波に乗るために』
4回目 2016/8/3 『Words of wisdom 師から頂いた言葉』
 
 
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