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折原 紀満(オリハラ ノリミツ)
Solid Skates(ソリッドスケーツ)という屋号で
無垢の木材からスケートデッキを造る、デッキシェイパー。
1961年誕生・北海道札幌で育ち、十代前半にアメリカン・カルチャーの洗礼を受け、何かが覚醒。夏はもちろん、乾いた路面さえあれば冬でもスケートボードで遊び、スノーボードが登場してからは、嫌いだった雪でも遊ぶようになり、バートン・スノーボード初代チームメンバーに選ばれる、主にスラロ-ム競技を得意とし、スケート・スノー共にレースを楽しむ。十代半ば~二十代前半は、横乗り遊びに魅了され定職すら持たず滑りっぱなし。さすがにマズイと、1986年東京に居を移し生活を一変。場所が変われども、同じ嗜好の仲間にも恵まれスケートやスノーも結構充実した週末を過ごし、例の泡が弾けてもめげずに一端のサラリーマン生活を送るが、2012年四半世紀近く楽しんだ東京生活に別れを告げ帰郷。故郷の札幌で大好きなスケートデッキ作りを生業に選び、現在に至る。 |
1回目 |
2015/12/2 |
『出会い・そして別れ』 |
2回目 |
2015/12/16 |
『嗚呼、ハマっていく』 |
3回目 |
2016/1/6 |
『スケートボードのおかげかな?』 |
4回目 |
2016/1/20 |
『僕はいつまで滑れるのかな』 |
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『僕はいつまで滑れるのかな』
僕の書くコラムはこれで最後になります。
今までの三話は僕の昔話、
スケートを始めるきっかけとその時代の事、
今回はそこから繋がる僕の今についてです。
僕は今 故郷の札幌でスケートデッキを製作しています。
二十代中盤にここから東京へ出て建築等の意匠設計に携り、
四半世紀程の時間をそこで過ごし、
その生活の中でも常にスケートボードが傍にありました。
そして時代と共にスケートデッキの形は変化し続け、
用途にもよりますが、様々な形・デザインを経て、
現在においてスケートボードと言えば思い浮かべるあの形、
トリックの必要性から無駄を削ぎ落とした末の結果が生んだ形、
今はそれが一つの完成形として認識されている様に思います。
道具として完成された形の一つの見本のようなそれは、
個性というものを表現するための道具でもあると思うのですが、
使う人の体格・場所や目的によってそのサイズこそ変わりますが、
そのアウトラインは古臭い思考のオジサンが言うならば、
ある意味 没個性的であるようにも見えてしまいます。
その為でもあるのでしょうか?
近年はこれぞ個性!のような懐かしいデッキたちが各社からリリースされ、
ちょっとした復刻ブームがあり、それは今なおです。
僕の世代が感じ見てきたモノ・コト、
また別の世代が感じてきたモノ・コト、
それぞれに思う個性やカッコイイモノ・コト、
そんなモノたちを今、選び手に出来ることは本当に嬉しく楽しいことです。
そして、僕が思うカッコイイモノはもっと別のところにもあったのです。
思えば僕のデッキ作りの原点はそこに無いから作る、でした。
稚拙な出来のものから始まり、随分と色々なデッキを作ってきました。
ある時期はフレックスが欲しいが為に、船舶用の合板やバンブーの合板などを心材にし、
その上下をグラスファイバーで積層するなど手間の掛かったものだったり、
アンカットのデッキ原板が容易に入手出来るようになってからはそれを削ったりもしました、
どれも現在に於いてスケートデッキにはある意味定番とも言える素材を使って。
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(以前に製作したデッキたち、十代の頃に作ったロゴでした。)
そしていま、僕は無垢の木材を削っています。
木材には様々な種類(樹種)がありますが、その中でもデッキに適した材料は、
タモやナラ・ブナ、カエデやカバ・クルミ等々数え上げたらきりが無いほど。
其々に見た目の個性があり重さや性格も違う、育った場所や伐採してからの乾燥の仕方だったり、
たまには削っている途中で捩れてしまうヤツもいれば、割れちゃうヤツもいる、
それをなだめたりすかしたり、たまに諦めたりしながらの作業、何だかヒト付き合いっぽいですよね。
僕はその中でも特に、自分が育った土地 北海道のオニグルミを好んで使っています。
クルミと言うとウォルナットとよく混同されますが、
ウォルナットに比べ随分と柔らかく軽い、そして粘りがあり狂いが少ない、
過去にはライフル銃などの銃床などにも使われた素材であったとか、
厳しい環境で育ってもなお、素直で粘りのあるその性格が何だか北海道育ちらしいです。
それらの原木を製材されただけのもの、樹皮付き無垢の木材からスケートデッキを削り出します。
スケートデッキの製作をする方は大抵 自身のオリジナルテンプレートを持ち、
それを駆使してアウトラインを作りますが、
僕の場合、依頼主の体格・スタンス巾や使用目的・足回りに合わせその都度プランを起こし、
前職で身に付けたCADを使いアウトラインを作図、それをXY軸寸法と曲率に数値化します。
その数値を基に曲線定規を使い木材にトレース、
ジグソーで切り出し、それからひたすら鉋と木工ヤスリで削ります。
光を当てゆがみを捉え 指先の感覚で面を感じ、完成形を想像し形作る、
ビックリするくらいの量の木屑にまみれながらの作業、
プランにもよりますが、切り出した材料の半分位の重量になることもしばしばです。
それから自分のブランド名 SolidSkatesのロゴを一文字ずつ焼入れてデッキ素地の完成です。
これは無垢の素材に拘った名前、Solid:無垢という意味の他に堅実とか信頼とかの思いを込めています。
その後最終の仕上げ、デッキ面の木肌が見えるよう透明な滑り止め加工を施し、
ボトム面は木材の素材感が際立つオイル仕上げが基本です。
これは後に依頼主が自分でメンテナンスをすることで、素材の艶や深みを増していきます。
また材料によっては、全面を透明な飴色の塗装で仕上げることもあります。
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(今の僕が作っているデッキたち、)
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(僕が乗っているデッキたち)
無垢の木材は、その昔には定番とされていた素材ですが現在では残念ながら本当に少数派です、
実際に自分で製作を始めてその訳も随分と見えてきました。
時代の流れで滑りそのものが変化し、求められる素材が変わった事は言うまでも無く、
スケートボードのデッキとして使うにはまず強度が必要、
自然素材なので、同じ樹種でも個体によって向き不向きもある。
また粘りがあって硬い材料は重いか、乾燥で割れや暴れが生じる場合があるし、
軽く素直な材でも耐久性を求めれば厚みが増し重量が嵩む、
肉抜きで軽量化は図れるがそれをするには手間が掛かる。
大量生産するには材料の均一化が必要ですから、全くもって不利な素材なのですね。
製品として均一な強度と品質を確保するには合板が最適なのも納得ですね。
しかし、それらを併せて考えても無垢の木材は僕にとって魅力のある素材です。
なぜなら僕の作るデッキはとても立体的な構成だから。
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(レースデッキのボトム造型)
無垢材のデッキというと60~70年代のそれを連想させます。
ボート型のアウトラインで平たい板、キックテールが付いている程度でしょうか、
基本はそこにありますが、それが進化していたらどうなる?が僕の考え。
フラットだったデッキにテールキックが付き、そのうちノーズにもキックが追加され、
ある時期からのスケートデッキには当然のようにコンケーブが装備されました。
それ以外にも細部には様々な要素が追加されたり、合板プレス技術の進化と共に、
最近ではさらにそれをNC切削で形作ったものまで。
じゃあそれを無垢材で表現したらどうなの?と、
スケートデッキでは古臭い素材だから、その古い時代の表現が得意なのは当たり前、
けどそこに留まらず新しい要素を付加する事で形・乗り味がもっと面白くなる。
なので新旧問わずモノ・コト好きな僕には造型の自由度はとても大事、
昔からある素材なのに、あまり見たことの無い形、新しい形だって作れる。
無垢の木材からデッキを削り出すのはそんな意味なのです。
但し僕の削るデッキはトリックには向いてないけど・・・
作っているのは所謂ロングボードやクルーザーと言われるデッキです、
僕の考えるスケートスタイルをジャンルにすればそうなってしまいますが。
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(クルーザーデッキのボトム造型、)
最近良く思うこと、
その昔、あんなにいたスケートボーダーは何処に行ってしまったのだろう?
みんな楽しそうに滑っていたのに、
今はもう滑ることをやめてしまったのだろうか?
本当は滑りたいのに、トリックが出来無いと恥ずかしいからとか、
いやもう歳だからとか、家族も出来たしとか、だって危ないし、とか・・・
滑りたい気持ちがあったら、もう一度初めの気持ちで滑ったらいいのにね。
例えば、気持ちの良い日に家族を連れてピクニックがてら、
広い場所でのんびりと気持ち良く、ほんのちょっとした坂を下って、
恥ずかしがらずに、怪我をしないようプロテクターをつけて。
そんなオトナがもっと増えると良いのにね。
僕のスケートボーディングの原点はアメリカへの憧れから、
そして、その道具が欲しいけど無いから作る、
スケートを始めてからはスラロームが大好き、でした。
50代も半ばになると、さすがにハードなトリックはキツくなって来ます、
(とんでもなく例外!な方もいらっしゃいますが・・)
そんな時、スラロームってシンプルながらとても奥が深い遊びです、
板の挙動を制御し、それでもポンピングしながらスピードを上げていく、
スピードが上がれば、また制御する為の反応速度も上がっていく、
しかしいくらスピードが上がろうと、ゴールをしたら安全に止まらなくてはならない。
僕が思うスケートボーディングの基本は、安定して滑る・曲がる・止まる。
スラロームの中にはその重要な技術を養う為のものが詰まってます、
華やかなトリックは、まだまだその先に広がっていますしね。
あまりに当たり前すぎて申し訳無いのですが、本当に大事なことだと思います。
いまさら言われるコトじゃ無いから~ と言われそうですが、
お気に入りのデッキに、気持ち良く滑り・曲がる為の足回り、
安全に止まる為のスキル。そして安全に滑ることが出来る場所。
これだけ有ればスケートボーディングは楽しめますよね。
かくいう僕もいつまで滑ることができるのだろう?
出来る限りそれは先であって欲しいけど、不具合が出来てもそれはそれ、
この世界からスケートボーダーが居なくなるわけじゃない。
そんなときに僕の経験やモノ作りが、そのお手伝いになればとても嬉しいなあ。
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(僕の仲間、オトナのスケートボーダーたち、みんな笑顔。)
これで僕のコラムは終わり、
最後までお付合い頂き、感謝!です。
そして、この機会を与えて頂いたことにもまた感謝!します。
ありがとうございました!
そして次回からは、僕たち世代の憧れ、
しかし今なお現役で飛ばし続ける先輩、とんでもなく例外!な方の代表、
今年プロ生活40周年を迎える、AKI AKIYAMAさんにお願いいたしました。
僕ごときがお願いしたのにも関わらず、快諾して頂きましたので、
次回からのスケートコラムが、僕自身 無茶苦茶楽しみです!
本当にこれが最後になりますが、
僕がSolidSkatesを立ち上げた時、作ったパンフレットの1節です。
今更ながら、ここに僕の思いの全てが詰まっていたように思います。
1975年、僕は新しい楽しみを手に入れた、
それは、24インチの不安定に走る板。
時間の許す限り、飽きることを知らずに、毎日、毎日、
素晴らしい路面を探し、まるで夢遊病者のように、それはやがて作りかけの高速道路にまで。
はやる心を抑えつつ、大きく息を吸込み、プッシュ!プッシュ!プッシュ!
乾いたオープンベアリングの音!ウィールが軋み、トラックが僕を振り落とさんばかりに暴れ始め!
頭上から聞こえる心臓の鼓動、みぞおちあたりに冷たい感覚、あと少し、我慢、我慢、
やがてスピードは大きなターンにのみ込まれ、一点に吸込まれた景色も広がりだす。
静寂・・・・そしてまた、プッシュ!プッシュ!プッシュ! ・・・・・・
・・・あれから随分と年月を重ねました、もう、そんなに危ない事なんか出来ません、
けれど胸の奥にはずっと同じ感覚が棲みついたまま、そんな大人そこにもいるんじゃないですか?
歳を重ねた今だから、晴れた休日にお気に入りの場所で、ゆったりと、気持ちよく、時にはタイトなターンを、
僕の故郷、北海道の木材を中心に使い、そしてなるべく動力に頼らぬように、一枚、一枚、手で削っています。
そして来月、2月16日からのインタースタイルに出展致しますので、
是非、見に来て下さいね!
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